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最高裁判所第一小法廷 昭和45年(行ツ)111号 判決

松江市岡本町一〇六二番地

上告人

湖北ベニヤ株式会社

右代表者代表取締役

又賀清一

右訴訟代理人弁護士

片山義雄

同市内中原町二一番地

被上告人

松江税務署長

三輪渉

右当事者間の広島高等裁判所松江支部昭和四三年(行コ)第一号法人税額更正決定取消請求事件について、同裁判所が昭和四五年九月一六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人片山義雄の上告理由第一点について。

原審は、炭谷武義および山田正男の両名が、更生手続開始決定を受けた上告会社の取締役として、管財人の監督のもとに実質的に同会社の経営活動に従事し、相当の収益をあげたものであり、本件賞与はこれに対する褒賞として支給されたものであるとの事実を認定しているのであつて、右認定は原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠関係に照らして首肯することができ、右事実関係のもとにおいては、旧法人税法施行規則(昭和三四年政令第八六号による改正後のもの)一〇条の四本文の規定により、本件賞与の額を法人所得の計算上損金に算入することができないとした原審の判断は、正当として是認することができる。所論指摘の原判示は、会社更生法(昭和四二年法律第八八号による改正前のもの)五三条の規定に抵触する判断を述べたものとは解されず、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

同第二点および第三点について。

本件賞与の額を損金に算入することができないことは第一点について判示したとおりであり、この結論は、本件更生計画において利益金処分としての役員賞与の支給が予定されていたかどうかによつて左右されるものではない。したがつて、所論は、原判決の結論に影響のない傍論を非難するものに帰し、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤林益三 裁判官 大隅健一郎 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一 裁判官 岸上康夫)

(昭和四五年(行ツ)第一一一号 上告人 湖北ベニヤ株式会社)

上告代理人片山義雄の上告理由

第一点 原判決は、第一審判決が認定した事実及び弁論の全趣旨に照し、(A)本件会社更生手続は、更生計画認可決定後も、会社の事業の経営財産の管理処分の権限が管財人に帰属するとの見解で運営されたものと認められ、当裁判所も右見解を正当と考える、といいながら一方において、(B)更生計画の定めに従い選任され又は留任した取締役(新取締役)は、会社更生法上その権限を制限されているとはいえあくまで更生会社の経営者であり、その立場で管財人の更生計画の遂行に実質的に協力をなすべきものである。本件においては更生計画の実施中、又賀管財人が多忙なため、炭谷山田の両名が更生会社の新取締役として同管財人の監督のもとに実質的に更生会社の経営活動に従事していたものであると判示した。右(B)の見解中、新取締役が管財人の更生計画の遂行に実質的に協力すべきものとする点はよいとして、新取締役が更生会社の経営者であるとする点は(A)の見解と矛盾している。

会社更生法第五三条(昭和四二年法律第八八号による改正前)は更生会社の事業の経営並に財産の管理及び処分をする権利は管財人に「専属する」と規定して居り、このことは新取締役が独自の立場で経営活動をなすことを禁止する趣旨である。蓋し、更生手続開始前の旧取締役は、会社の経営に関する事情に精通しているため、実際上の便宜から、更生計画によつて更生会社の新取締役として選任されることが多いが、旧取締役は会社を更生手続に追い込んで、多数の債権者に迷惑をかけている者であつて、かかる者が独自の立場において経営活動を行うことは、債権者としては到底容認できないところから設けられた規定であり、従つて強行規定と解すべきである。従つて会社更生法第五三条の規定は、新取締役の経営者的地位を否認するものと云うべきである。

この見地よりすれば、「会社の事業の経営、財産の管理処分の権限が管財人に帰属する」ことは、管財人に専属することであり、従つて新取締役は経営者たる地位にはあり得ないものであるのに、原判決が新取締役が会社の経営者たる地位にあつたものということは前後矛盾であると云わなければならない。

原判決は敢てこの矛盾を犯したものであるが、この矛盾は判決の結果に影響を及ぼすことが明である。

第二点 原判決は「本件更生計画上営業剰余金は更生債権の弁済にあてられることと定められ、それ以外の利益処分は予定されていない」ことを認め、このこととの抵触を避けるため、炭谷山田両取締役に支給した賞与は、営業成績を上げるのに功績のあつた両に対し、更生手続上会社の事業の経営に関する費用(会社更生法第二〇八条第二号所定の共益債権に該当)の弁済として適法に支出されたものと認める余地があると判示している。この見解は牽強附会も甚だしいそもそも炭谷山田両取締役は、上告人会社を更生会社に追い込み、債権者に多大の迷惑をかけた者であつて、両名がかりに営業成績の向上に努力したとしても、之に対し、利益金処分的性格を有する賞与を支給するが如きは、債権者の容認し得ないところであり、更生債権更生担保権にも優先する共益債権と見なすが如きは、債権者の立場と全然遊離した考え方である。

原判決は会社更生法上の共益債権についてその解釈を誤り、これが判決の結果に影響を及ぼすこと明かである。

第三点 更に原判決は「更生手続上費用とされる支出(共益債権の支出)だからといつて、法人税法上当然にこれを損金に算入すべきものということはできず」「更生手続上の「経費」とされるものが法人税法上「益金」とされることは法的評価の相対性からみて止むを得ない」としている。法的評価が相対性をもつことについては、全く之を否定することはできないが、凡そ法律の解釈は穏健な常識の範囲を逸脱するところまでに及ぶべきではない。法文上の表現が、全く相反する二つの場合に共通して用いられるというようなことは、認むべきではない。そもそも「経費」は会計学上「損金」のカテゴリーに属し「益金」とは全く対立する観念である。この経費なる観念を或る場合(会社更生法上)には損金として扱い、他の場合(法人税法上)には益金として扱うが如きは、正に右述の合に該当し到底許さるべき解釈とはいえない。

原判決は右の如き法律解釈上の誤をおかし、この誤が判決の結果に影響を及ぼすことは明である。

以上

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